第45号(2004年3月)
英国における国債管理政策の変遷:1694〜1970
藤井眞理子(東京大学教授)
- 〔要 旨〕
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本稿は,英国における国債管理政策について,主に国債負担軽減のために実施された国債管理政策の変遷と負担軽減の要因について論じたものである。
第二次世界大戦期までの国債発行は戦費調達と深く結びついているが,対国民所得比でみた国債残高の第1のピークは19世紀前半のナポレオン戦争後にみられる。約2.9倍にも達したこの比率は,19世紀を通じて着実に低下をみせ,特に,19世紀後半には長期にわたって債務残高の減少がみられた。これは,経済の成長や国富の増大を背景とした税の自然増収等を基本的な要因とするものであるが,制度面でも減債基金や有期年金を通じる規則的な償還が寄与した。
借換政策の面では,第一次大戦前における債務の大部分は永久債であったことから,財政負担軽減のための「低利借換」が重要な政策として位置付けられていた。また,戦時においては短期債での資金調達が多かったため,戦争終了後には満期構成の長期化を図るための「長期借換」も頻繁に行われた。
「国債負担」の第2の大きなピークである第二次世界大戦に伴う国債の累増は,戦後から1970年代までは財政赤字がコントロールされていたこともあり,インフレーションをともなった名目経済成長の継続により急速にその対GDP比を低下させた。
巨額の国債残高の累増は,年々の財政を通じた資源配分の機能を制約する。国債の負担をマクロ経済との関係でみれば,必ずしもその名目残高の減少が重要とはいえないが,短期間に負担軽減を達成できる特別の政策手段がないことは,長い英国財政の歴史をみても明らかである。そこで示されていることは,19世紀後半のような長期にわたる高い実質成長率による経済発展が見込めない限り,まずは残高を増加させないこと,すなわち,プライマリーバランスの均衡を回復し,維持してゆくことが国債負担による財政制約回避への第一歩であるという自明の結論である。