第46号(2004年6月) 金融ビッグバン後の投資信託の現状と課題
マクロ統計による取得課税ベースの推計(下)
望月正光(関東学院大学教授)
野村容康(獨協大学助教授当所客員研究員)
深江敬志(青山学院大学助手)
- 〔要 旨〕
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本稿の目的は,わが国の所得税課税ベースをマクロ統計(93SNAによる国民経済計算)によって推計することである。推計対象は,(1)要素所得課税ベース,(2)発生キャピタル・ゲインおよびロスを加えた包括的所得課税ベース,(3)実現キャピタル・ゲインおよびロスを加えた包括的所得課税ベースとする。三つの所得課税ベースの推計からわが国の所得税課税ベースの動向を比較し,望ましい所得課税ベースの選択について分析することを意図している。
本稿は上・下に分け,上(前号)では,(1)要素所得課税ベースについて,93SNAに基づいて改訂された『国民経済計算年報』を用いることによって,わが国の要素所得課税ベースを推計した。下(本号)では,(2)発生キャピタル・ゲインを加えた包括的所得課税ベースについて,93SNA基準に従って推計する。これにより,発生キャピタル・ゲインおよびロスを加えた包括的所得課税ベースの場合,損益通算制度が重要な役割を果たすことを示す。また,最近議論されている二元的所得課税の課税ベースの考えに従い,損益通算を財産所得に限定した場合の所得課税ベースについても推計する。さらに,(3)株式の実現キャピタル・ゲインおよびロスを加えた包括的所得課税ベースについて分析を行う。
その結果,(2)発生キャピタル・ゲインを加えた包括的所得課税ベースは大きく変動するものの,損益通算の対象を財産所得に限定することにより勤労所得の課税ベースは安定的に推移することが示された。一方,(3)実現キャピタル・ゲインを要素所得に加えた包括的所得課税ベースの年々の動きは,分析の対象期間における資産価格の急激な変動にも関わらず,比較的安定的に推移することが確認された。この点については,とりわけロス控除が非常に限定的であったこれまでの株式譲渡益課税制度の下で,納税者がキャピタル・ゲイン(ロス)実現の均霑化を図った結果であると推測される。
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