1. TOP
  2. 出版物・研究成果等
  3. 定期刊行物
  4. 証券経済研究
  5. 第48号(2004年12月) 情報化時代への適応を模索する株式市場システム

第48号(2004年12月) 情報化時代への適応を模索する株式市場システム

アジアの新興市場におけるSRIの萌芽的形成
─概観と展望─

澤田貴之(名城大学専任教授)

〔要 旨〕

 欧米市場で先行して普及してきたSRI(社会的責任投資)ファンドが,アジア市場でも萌芽的形成を見せ始めている。1999年にアジアで最初にエコファンドの運用・販売を開始した日本を除けば,アジア地域のリージョナル金融センターである香港,シンガポールがその発信地となっており,欧米SRIファンドと並んで,香港,シンガポールのSRIファンドはアジア域内企業の銘柄を組入れることで,域内企業に対してCSR(企業の社会的責任),CG(コーポレート・ガバナンス)改革を促す主要な一つの手段となる可能性を持っている。
 特に香港のSRIファンドは,中国大陸へのゲートウェイとして情報収集面等での優位性を持っており,中国企業への影響力が注目される。また2000年の退職年金基金(MPF)の設立とオプションとしてのSRIファンドの導入が,香港におけるSRIそのものにはずみをつけ,オーソライズする契機ともなった。香港の場合,既に個人投資家層も欧米日市場と共通して,高齢者・富裕者層のSRIへの関心度が非常に高いことがわかっており,日本同様,SRI市場は短期間に急成長していく潜在的な条件を既に備えている。
 他方でアジア金融危機以後,CSR,CGのアジア各国での進捗度の違いから,欧米SRIファンドとともにアジアSRIファンドもCGカントリースコアの低いアジア域内企業銘柄(インドネシア,フィリピン等の銘柄)の組入れには消極的で,国レベルでのCGスコア向上も焦眉の急となっている。短期的な観点からは2004年のISOによるCSRの規格化着手の決定によって,その促進がより進展していくと考えられるが,SRIファンドを通じた長期的なアジア域内企業へのCSR促進効果については,国内機関投資家の株主行動も含めた総合的なSRI活動への発展と収益性との関連を今後も見据えていく必要があろう。

  • facebook
  • twitter
  • line