第52号(2005年12月)
ミューチュアル・ファンドをめぐる不正行為と
SECの監督・検査体制
佐賀卓雄(当研究所理事・主任研究員)
- 〔要 旨〕
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2003年の秋以降,相次いで摘発されたミューチュアル・ファンドの不正行為は,それまでの不正会計処理,アナリスト問題とも相まって,投資家の証券市場に対する不信感を強めることになった。しかし,その後のSECによる精力的な規制体系の見直し(規則制定および改訂)によって,ようやく信頼を取り戻したようにみえる。この問題を契機に,SECの投資会社に対する監督体制が強化されるとともに,SECの規則制定は,直接の問題となった時間外取引や短期取引についてだけではなく,ミューチュアル・ファンドの手数料,投資会社のガバナンス構造などの問題にも及んだ。ただし,一部の規則については,業界の反発もあり,先行きがはっきりしないのが現状である。
ミューチュアル・ファンドは家計が保有する最も重要な金融資産の一つであるばかりではなく,退職年金市場でも重要な役割を果たしている。このことが議会,SECなどに迅速な行動を採らせた背景にある。しかし,アナリスト問題同様,最初の摘発がニューヨーク州の司法局によって行われたために,証券取引についての連邦規制機関であるSECの監督体制にもメスが入れられる契機になった。
この問題について一連の調査を行ったGAO(行政監督院)は,SECの犯罪照会プロセスが他の監督官庁と較べてルーズなこと,またSEC職員の退任後のポストについて情報を完全には把握しておらず,利益相反の可能性が完全には排除されていないことを指摘している。さらに,GAOは議会からの要請により,SECの改善後の検査方法の評価を行っている。それによると,検査のアプローチが改善されたとはいえ,さらに①検査が効果的かつ効率的に行われているかどうかを判断するために,定期的に投入される資源のレベルを評価する必要,②そのために,ブローカー・ディラーとミューチュアル・ファンドの検査にあたって重複の排除,③検査の質を高めるための方針と手続きの確立,④ブローカー・ディラーの検査によって得られた情報の電子媒体への保存,が必要であることを指摘している。
SECは基本的にGAOの勧告にしたがい,監督および検査体制の改善に取り組む意向である。