第55号(2006年9月)
地方債の改革と簡易保険の資産運用
代田純(駒澤大学経済学部教授・当研究所客員研究員)
- 〔要 旨〕
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本稿は,わが国地方債市場の動向を概観し,従来地方債の主要な引受先であった政府系資金との関連について,簡易保険を中心に検討するものである。
現在,地方債は大きな問題となっている。地方財政の改革が重要な政策課題となり,いわゆる「三位一体改革」が進むなかで,2006年4月から許可制から協議制へ移行するなど改革が進んでいるためである。また,2006年6月には北海道夕張市が財政再建団体として申請し,あらためて地方公共団体の債務が注目されることとなった。
本稿では,地方債残高が増加してきた背景として,1990年代以降の地方財政の歳出構造と歳入構造が検討される。地方債が増加してきた要因は,1990年代における地方公共団体による単独公共事業の増加,その結果として2000年以降公債費負担が増加したこと,他方で1990年代以降不況で地方税収が伸び悩んだこと,さらには国庫支出金(補助金等)や地方交付税交付金が削減されたこと等である。
従来,地方債の主要な引受先であった政府系資金による地方債保有が減少傾向にある。簡易保険の資産構成においても,地方債は低下している。その一因は,簡易保険の運用利回りでも,地方債の運用利回りは低く,金融商品として競争力に劣ることであろう。東京都債等以外は一律に発行条件が決定され,財政力が発行条件に反映されてこなかった。このため地方債の利率は,流通市場の実勢を反映してこなかった。
地方債の発行市場を改革し,金融商品としての競争力を高めることが必要である。政府系資金とされてきた簡易保険や郵便貯金も民営化の方向であり,こうした努力が不可欠であろう。またイギリスのイングランド銀行では,オペ対象に適格地方債が含まれているが,わが国では含まれていない。地方債の発行市場改革を前提として,金融政策面からも検討の余地があるのではないか。