第56号(2006年12月)
企業の社会的責任(CSR)への取組みとパフォーマンス:
企業収益とリスク
首藤惠(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授・当研究所客員研究員)
増子信(明治安田生命保険相互会社)
若園智明(当研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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この論文の目的は,コーポレート・ガバナンスの観点に立って,企業の社会的責任(CSR)への取組みを地域社会・環境を含む多様なステークホルダー間の利益相反問題を円滑に解決する企業戦略と捉え,企業パフォーマンス(収益性とリスク)との関係を実証分析することにある。CSRへの取組み姿勢が異なる企業間における,5年間の収益性とリスクの差を,次の2つの方法で検証した。
第1に,4つの代表的なSRIインデックスに含まれる日本企業を選んでインデックスごとのポートフォリオを作り,それらCSRポートフォリオ間のパフォーマンスの差の検定ならびに,比較可能な非CSRポートフォリオとの差の検定を行った。CSR方針が明確な企業の方がリスクは小さく,非CSR企業と比べてCSR企業のリスクはより小さいという事実が見出せた。第2に,東証上場企業を対象に4つのSRIインデックスのうち少なくとも2つ以上に含まれる企業をCSR企業として他の企業と区別し,PROBIT回帰モデルを用いてパフォーマンスの違いを分析した。推計結果によれば,CSR企業は低リスク・低収益の安定志向企業であり,市場で好意的に評価されているという推計結果が得られた。
すなわち,明確な方針をもったCSRへの取組みは,企業が直面するリスクの軽減に有効な戦略であること,CSRはリスク管理の面で企業ガバナンスの重要な要素であることが示唆される。他方で,CSR活動を通じたリスク軽減にはコストがかかり,収益性を圧迫している可能性も否定できない。