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第56号(2006年12月)

米国証券リテール規制の金融商品取引法への示唆(下)

青木浩子(千葉大学教授)

〔要 旨〕

 金融商品取引法(金商法)の行為規制については,立法上の詰めを欠いたまま,政令・内閣府令に委ねられた内容が多い(前号参照)。説明義務・適合性原則を始めとして,今後の補充や見直しの必要性が予想される。そこで,適合性原則に関する米国証券自主規制機関の規則・会員通知・処分例と,受託者責任に基づく説明義務違反に関するこれも米国の裁判例とを紹介したい。前者は主にわが国自主規制機関の活動および社内基準を考える際の,後者は販売勧誘・資産運用助言・資産管理の各業務にわたって金商法が導入した受託者責任およびそれに基づく一般的義務を解釈する際の参考となろう。
 本稿は,(1)民事救済に立脚したわが国リテール規制は,金融商品の複雑化および投資の大衆化を前提とすれば不適切・不十分である,(2)自主規制機関による事前規制(商品および取引類型の業界周知,顧客保護に向けた制裁の多様化)の原則化が合理的である(不可能であれば,規制監督機関によるきめ細かい事前対処により代替すべきである),(3)州法法理を踏まえた一般的義務とくに受託者責任の裁判上の追及は,例外的・最終的な救済制度としてしか期待できない,の3点を主張している。金商法はこれらと逆の方向を向いている。すなわち,受託者責任を中心とする一般条項をリテール投資家保護規制として置き,民事救済への依存を深める一方,自主規制の発達を特に促しておらず,金融庁自ら監督内容を具体化する意向も示していない。

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