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第56号(2006年12月)

家計資産と税制

篠原正博(中央大学経済学部教授)

〔要 旨〕

 本稿では,家計が金融資産と不動産(持ち家)のそれぞれに投資する場合における課税の効果を検討するため,実質資本コストを定式化し,1980年代および1990年代のケースについて実効限界税率の推計を行った。本稿の特徴は,(1)金融資産に対する税の負担を法人段階の課税も併せて検討したこと,(2)持ち家の実質資本コストの計測に際して,家屋部分に加えて土地部分も含めたこと,(3)租税変数の中に,既存研究で扱われていた税目の他に,譲渡所得税および都市計画税を追加的に含めたことである。分析の結果,以下のような事柄が明らかにされた。
 (1)金融資産に対する個別の税制の効果を2000年の場合についてみると,社債に投資する場合は,投資に対する優遇措置(減価償却,準備金・引当金),法人所得課税(法人税,法人住民税,事業税),企業に対する固定資産税の順となっている。株式投資の場合は,投資に対する優遇措置,法人所得課税,利子所得税,キャピタルゲイン税,企業に対する固定資産税,配当所得税の順である。
 (2)持ち家の場合は優遇措置(所得税,固定資産税)の効果が最も大きく,次いで譲渡所得税,消費課税(消費税・地方消費税),資産保有課税(固定資産税・都市計画税),資産移転課税(登録免許税・不動産取得税)の順となっている。
 (3)1980年代以降における金融資産と不動産(持ち家)の選択に税制が与える影響をみると,特に1990年代において税制の干渉度が高まっている。金融資産よりも持ち家の方が,税制上相対的に優遇されている。実効限界税率は株式の方が社債よりも大きいが,社債と株式の選択に関する税制の干渉度は低下傾向にある。持ち家(新築中高層耐火建築住宅)と持ち家(新築住宅)の選択に関しては,税制はほぼ中立的である。

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