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第56号(2006年12月)

IT投資促進税制と企業行動
―企業による特別償却と税額控除の選択―

川口真一(鳥取環境大学環境情報学部専任講師)

〔要 旨〕

 政策税制(租税特別措置)を実施するにあたり,企業行動を把握することは極めて重要である。なぜなら,資本規模等が異なれば,企業による節税行動や資金調達方法,配当政策等の戦略も異なるため,政策税制に対する企業のリアクションも同一ではないと考えられるからである。租税政策に企業行動を織り込むことは,政策効果を高めるためにも重要であるが,わが国の政策税制に関する企業行動の検証は必ずしも十分とはいえない。
 2003年の税制改正において導入されたIT投資促進税制は,企業がIT関連設備を取得した場合,税額控除と特別償却のどちらかを選択することができる。企業は,税額控除よりも特別償却を選択した方が一時的により多くのキャッシュフローの増加を図ることができるため,資金制約の強い小規模な企業ほど特別償却を選択すると考えられる。
 したがって,本稿の目的は,資金制約が強いと考えられる小規模な企業ほど特別償却を利用して,資金制約を緩和し設備投資資金を確保しているという仮説を検証することにある。しかし,2000年度から2004年度までのパネルデータを用いて分析を行った結果,税制改正後は大規模な企業ほど特別償却制度を利用していることが明らかとなり,本稿の仮説は棄却された。仮説が棄却されたことにより,小規模な企業は節税効果の観点から特別償却よりも税額控除を利用している可能性が明らかとなった。つまり,IT投資促進税制に対して小規模な企業ほど節税行動をとっていたのである。

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