第64号(2008年12月)
配当課税が家計の株式投資行動に与える影響
―『証券貯蓄に関する全国調査』個票データにもとづく実証分析―
林田実(北九州市立大学教授)
大野裕之(東洋大学教授)
- 〔要 旨〕
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税制が株式投資に如何なる影響を及ぼすかを定量的に明らかにする研究は,わが国でいまだ十分な蓄積がない。本研究はその間隙を埋めるべく,社団法人証券広報センター実施の『証券貯蓄に関する全国調査・平成12年度版』の個票データを用いて,配当課税が家計の資産選択行動に与える影響を探った。具体的には,本調査が各家計の株式保有残高のみならず,購入予定額,予定保有期間について尋ねていることから,株式需要と保有期間に対する各家計の限界税率の影響を検証した。平成12年当時,配当所得課税の制度は,1銘柄あたりの配当額に応じて,源泉徴収,申告納税,およびその選択と複雑になっていることから,家計ごとに異なった限界税率を推計することが可能である。株式需要額と予定保有期間を被説明変数として,そうして算出した限界税率で,資産保有額,年齢などとともに回帰した。その際,これら被説明変数が閾値の知られた質的変数で,しかもその最上位選択肢には上限閾値が無いことに鑑み,Ordered(順序型) Tobitモデルで推計した。その結果,配当税率の上昇は株式需要を押し下げ,保有期間を引き延ばすことが示唆された。前者の示唆は,株式市場をめぐる環境が不確実な今日,配当税率の引き上げを行った場合,大きな株式需要の減退が起こりうること,「貯蓄から投資へ」の成功のためには,むしろ配当への税負担を引き下げる政策こそが必要であることを含意する。