第66号(2009年6月)
IPOにおける市場間の棲み分けと主幹事証券会社間の同質化
テキ林瑜(大阪市立大学大学院教授)
- 〔要 旨〕
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新規株式公開(以下IPO)においては,IPO企業と投資家間の橋渡し役を担う証券取引所が,上場基準と上場後の情報開示ルールの制定等を通じて,IPO企業の質,従って,IPO後の企業の経営業績と投資家の投資パフォーマンスに大きな影響を与える。日本では,IPO企業の選択できる市場として,東証Ⅰ・Ⅱ部,大証Ⅰ・Ⅱ部等の本則市場以外に,ジャスダック,東証マザーズ,大証ヘラクレス,名証セントレックス,札証アンビシャスと福証Qボードといった6つもの新興市場が存在する(ジャスダックは2007年11月に新しい技術やビジネスモデルを持つ企業向けの新市場「NEO」を別に開設している)。世界でもまれに見る複数のIPO市場の存在は,投資家とIPO企業に多くの選択肢を提供しているように見えるが,果たして投資家と企業のためになっているのであろうか。
主幹事引受証券会社もIPO企業と投資家間の橋渡しの機能を持っている。主幹事証券会社は,引受シンジケートの組成,IPO企業の上場審査,ブックビルディング,公開価格の決定とIPO株の販売等において主導的な立場にあり,そのかかわり方はIPO市場同様,IPO企業の質を規定する。ところで,主幹事証券会社は期待通りの上場審査による企業選別の機能を果たしているのであろうか。
上述の2つの問題に答えを見出そうとする本稿では,2001〜2006年にIPOした企業の財務データと株価データを用いて分析した結果,主として以下の2つの結論が導かれた。第1,複数のIPO市場によるIPO企業の獲得競争が,市場間の棲み分けをもたらし,ジャスダック以外の新興市場におけるIPO企業の質の低下を招いている。第2,IPO企業の引受において,大手3社の証券会社が半分以上のシェアを占めるが,その上場審査の質は,他の証券会社とは大差がなく,期待されているIPO企業選別の機能が果たされていない。