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第68号(2009年12月)

最近におけるわが国所得課税ベースの動向

野村容康(獨協大学准教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿では,国民経済計算および税務統計等のマクロデータを用いて,最近におけるわが国所得課税ベースの動向について分析した。本稿で明らかにされた主要な点は以下のとおりである。
 (1) 潜在的な所得税の課税ベースを表す「家計部門の受取り」に占める課税所得の割合は,1996年から2001年にかけて低下している(マイナス18%)が,その後2007年まで上昇傾向にある(プラス13%)。
 (2) 前者の期間においては,「非課税社会保障Ⅰ」(とりわけ現物社会給付)と「非課税収入」が課税所得の主たる縮小要因であった。
 (3) これに対して,後者の期間においては,「所得控除」が課税所得の主たる拡大要因であった。しかし,この間,公的年金等控除は依然として課税ベースの縮小要因であり,高齢化の進展を背景に,今後ますます拡大していくものと予想される。
 (4) 給与所得控除については,この11年間における給与所得者数の増加にもかかわらず家計部門の受取りに占める割合はほとんど変化していない。その要因の一つとして,近年における平均給与額の減少に伴って,低所得者による給与所得控除の潜在的な未使用額が増大していることがあげられる。この点は,最近における平均所得の低下とともに,低所得者層にとっての所得控除の意義がしだいに薄れてきていることを示唆している。
 (5) すべての期間を通じて,帰属家賃は課税ベースの安定的かつ継続的なマイナス要因であり,これにより,近年,家計資本所得のおよそ半分が実質的に非課税となっている。課税ベースを安定的に維持し,かつ課税の公平性を確保するうえでも,帰属家賃への課税は,今後のわが国所得税政策において避けられない重要な課題であると考えられる。

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