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第70号(2010年6月)

配当課税と株式投資―多年度マイクロデータによる家計の分析―

大野裕之(東洋大学教授)
林田実(北九州市立大学教授)

〔要 旨〕

 我が国において配当課税が家計の投資行動にどのような影響を与えているのかという問題に対して,十分な実証的研究は未だ行われていない。この間隙を埋めるべく,林田・大野[2008]では,社団法人証券広報センターによる平成12年『証券貯蓄に関する全国調査』の個票データを用いて分析している。しかし,その研究は単年のデータを用いたものであって,そこで述べられた結論が長期にわたる家計の投資行動に対しても有効であるか否かは定かでない。そこで,本論文では,同調査の平成3年から18年までの6回分の調査結果を用い,購入意欲,保有期間に対する家計ごとの限界配当税率の影響を統計的に探った。その際,平成15年税制改正が行われたことを受けて,推計式にそれを表すダミー変数を加え,その影響も吟味した。まず,購入意欲の分析をプロビットモデルで行った。その結果,配当税率の負の有意な影響が検出された。また,配当税率軽減を除く税制改革の効果は正の有意な影響として検出された。次に,保有期間の分析においては,順序型トービットモデルの推計により,配当課税は保有期間を長びかせ,取引を不活性化する効果をもつことが示唆された。以上の分析結果によれば,「貯蓄から投資へ」の政策遂行のために,配当税率を軽減させたことは正しい選択であったと判断できる。また,平成24年以降の配当税率の加重は株式投資の減退が起こることを予想させる。

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