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第76号(2011年12月)

現代的証券市場における最良執行義務

木村真生子(筑波大学大学院准教授)

〔要 旨〕

 取引所市場への集中義務が撤廃されるとともに吞行為の禁止も廃止されたことから,わが国は,その代替措置として,アメリカをはじめとする諸外国の制度に倣い,最良執行義務を導入した。現在,最良執行義務は金融商品取引法40条の2に規定されている。その目的は,金融商品取引業者等が顧客に対して最良執行を確保すること,つまり,最良の取引条件の獲得を目指す投資者の市場選択に関して,業者に一定の行為義務を課すものである。
 しかし「最良の執行」とは何かが条文上明らかにされていないこともあり,本規定の目的に沿って義務を履行するために,金融商品取引業者等が何をすべきかは必ずしも自明ではない。またそもそも,市場間競争が起きていないわが国の証券市場は顧客に豊富な選択肢を提供していないため,わが国で最良執行義務がいかなる意味を持ちうるのかは判然としないところがある。
 本稿は,母法があるアメリカの最良執行義務のルーツを検証し直し,市場分散が進む市場で同義務が,現在いかなる機能を果たしているのかにつき詳細な検討を行う。検討を通じて,信認義務に理論的基礎を置くとされる最良執行義務が,現代の証券市場においては,業者が個別の顧客に対して負う契約上の義務としての性質を帯び始め,また一方で,市場の公正性を確保するために業者が市場に対して負う義務という意味合いを持ち始めたことを明らかする。

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