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第80号(2012年12月)

最近のアメリカにおける退職貯蓄政策の展開
―「自動化IRA」構想の可能性―

野村容康(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿は,2000年代半ば以降,「自動化IRA」の構想がアメリカの退職貯蓄政策の有望な手段として浮上してきた背景を探るとともに,実際の自動化IRA提案の可能性と問題点について検討した。
 現在,アメリカでは,全労働者の約半数が退職プランを提供しない企業で働いており,とりわけ小規模企業に従事する低賃金労働者の貯蓄不足が深刻な問題となっている。そうした状況の下で,先行する401(k)プランの自動化が労働者の年金プランへの加入増加に一定の成果を上げたことから,退職貯蓄政策の新たな展開としてIRAの自動化が民間団体のみならず,政府や連邦議会議員の中からも主張されるようになった。
 政府による自動化IRA提案は,年金プランをもたない小規模企業に対して,opt-out方式に基づき,従業員のIRAへの給与天引きによる拠出などを義務付けることを主な内容としている。その意義としては,まずIRAの利用者を劇的に増加させることで,短期的には勤労者の退職貯蓄を大幅に拡大する可能性がある。また,特に低賃金労働者の貯蓄が促進されると予想されることから,資産分配の改善に貢献することが期待される。さらに,既存のSaver's Creditの拡充と組み合わせて実現されれば,従来の貯蓄優遇税制に伴う逆進性の緩和にもつながるとみられる。これらの点から,自動化IRAの提案は,これまで政府が推進してきた退職貯蓄政策からの着実な前進として評価すべきである。
 しかし,IRAの自動化には,①それが低所得者の利益には結びつかない可能性があることに加えて,②歳入コストの増大や,③雇用主への負担,といった基本的な問題が指摘される。自動化IRAの実現には,とりわけ③に起因する政治的な反対が大きな障害となっており,この点で,今後の成否は,雇用主への負担を可能な限り排除する形での具体的な制度設計にかかっていると考えられる。

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