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第82号(2013年6月) 金融危機後のヨーロッパにおける金融規制の新潮流

ギリシャからキプロスへ─危機の伝播─

代田純(駒澤大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 ギリシャ国債のPSI(Private Sector Involvement)によって,キプロスの銀行は大きな損失を計上し,破綻と再編を余儀なくされた。またキプロスがロシアからの資金を受け入れ,ロシアマネーのマネーロンダリング地とみなされてきたことも問題を複雑にした。ドイツを中心とするユーロ圏各国は,自国国民による税金投入を極力避け,キプロス系銀行のステークホルダーに負担をまず求めた。枠組みは正論に見えるが,①優先債(senior bond)を含む,すべての社債保有者に債権放棄を要求した,②実施は見送られたが,10万ユーロ以下の預金保険対象の預金への課税を提案したこと,③ユーロ導入以来,初めてとなる資本規制を導入し,ユーロ圏とも資金移動が規制されていること,といった問題を含んでいる。優先債は,本来,返済が優先される債券であり,破綻処理において保険対象の預金と同じ位置にある。預金保険対象の預金が,銀行の破綻処理で没収(臨時課税)されるのであれば,預金保険に対する信頼を揺るがす。ユーロという同じ通貨が使用されているのに,送金規制されるのであれば,実質的に異なる通貨である。これらの問題をキプロス処理は突きつけている。2012年12月に,EUでは,銀行に対する監督を一元化する銀行同盟で合意したばかりであったが,早くも問題が露呈している。
 現在のユーロ不安は,金融恐慌の発現が,中央銀行信用(ECBによる長期レポオペやOMT等)の拡充によって,どうにか抑止されている状態と考えられる。金融恐慌の背景には,ドイツと南欧諸国との不均衡があると見られる。

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