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第85号(2014年3月) 情報化に揺れる株式市場における様々な論点

現代資本市場論の源流—ベーム=バベルク資本利子説の意味するもの—

野下保利(国士舘大学教授)

〔要 旨〕

 現代経済学において,利子や株式配当,資本利得(キャピタルゲイン)など金融資産収益についての諸理論の多くは,資本利子説の系譜に属している。資本利子説は,利子を含む各種金融資産の収益は,流動性やリスクなど各種資産の特性,あるいはその特性に対する主体の価値評価から生じると捉える。現代資本市場理論も,CAPMやAPTのような均衡制約付き資産価格論だけでなく,ノイズトレーダー仮説や行動ファイナンスからの資産価格論もまた,資本利子説に属している。
 資本利子説は,利子源泉を貸借関係に求める貸付利子説を批判するために,貸付取引や証券取引は,貸借取引ではなく,財交換と同じ交換取引の一種として捉えることになる。その結果,資本利子説においては,金融取引を支える預金銀行システムや証券市場などの各種の債権債務関係(貸借関係)とそれらの史的展開は,理論分析から排除されることになった。現代資本市場論においても,証券価格は証券取引を支える各種の債権債務関係の構造から切り離されて分析される。
 主観的価値論,すなわち限界効用価値説に基づいて資本利子説を体系化したのが,ベーム=バベルク(Eugen von Böhm-Bawerk)である。ベーム=バベルクは,3巻からなる『資本と利子』の第1巻である『資本利子理論の歴史と批判』によって貸付利子説を批判し,第2巻『資本の積極理論』によって,利子の根拠を現在財と将来財の交換における価値評価の違いに求めることになる。本稿では,ベーム=バベルクの資本利子説を検討することによって,資本利子説に依拠して証券取引を交換取引と捉えることの意義と問題点を明らかにする。

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