第85号(2014年3月) 情報化に揺れる株式市場における様々な論点
店頭デリバティブの清算機関・取引情報蓄積機関・電子取引基盤
福本葵(帝塚山大学教授・当研究所客員研究員)
- 〔要 旨〕
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店頭デリバティブ取引は,本来,リスクヘッジの手段として,期間や元本等の契約内容が,契約の当事者間で自由に設計されてきた。また,ヘッジする原契約のリスクも様々であるため,自由に設計することのニーズも大きかった。
しかし,2008年の金融危機によって,店頭デリバティブ取引のリスクを市場全体として把握すべき,管理すべきという要請が生まれた。店頭デリバティブ取引のシステミック・リスクが拡大するからである。システミック・リスクを低減するためには,店頭デリバティブ市場の透明性の向上や店頭デリバティブ取引やその参加者に対する規制を強化する必要があるとされるようになった。
清算機関の利用や取引情報蓄積,報告などの制度を通じ,リスクを把握し,価格の公正性を管理する必要性があるとされている。さらに,金融危機直後,デリバティブ取引についても店頭市場での流動性が低下する事態が生じたが,このような流動性についても,信頼できる透明性の高い取引システムが存在すれば,取引金融機関当事者の信用力に依拠することなく,安心して取引が行われるため,流動性が極端に低下することはないと考えられる。
そこで,本稿では,金融危機以後の国際的な規制強化の要請を受け,日本が店頭デリバティブ取引について,具体的にどのような規制を設けてきたか,これまでの進捗状況について整理し,今後予定されている規制についての方向性を分析し,規制の問題点について,考察する。
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