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第85号(2014年3月) 情報化に揺れる株式市場における様々な論点

ナイト・キャピタルのシステム・トラブル—SECの文書に基づく実態—

吉川真裕(当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 2012年8月1日,ニューヨーク証券取引所(NYSE)ではRLPと名付けられた価格改善制度が導入されたが,取引開始直後から普段はさほど取引が盛んでない複数の銘柄で活発に取引がおこなわれ,取引価格が大きく変動する銘柄もあらわれた。取引開始から45分が経過した10時15分になって異様な取引は収まったが,10時41分にNYSEは148銘柄の取引について取引取り消しの検討を開始したことを明らかにし,その日の午後に6銘柄の取引取り消しがNYSEから公表された。他方,NYSEのDMMを務めるナイト・キャピタルが顧客に対してシステム・トラブルの発生を通知していたことから,ナイト・キャピタルの株価は急落しており,8月2日の取引開始前にナイト・キャピタルは前日のシステム・トラブルに伴う損失が4億4,000万ドルにのぼることを公表した。
 8月5日の日曜日,ニューヨーク・タイムズ電子版は準大手証券会社のジェフリーズが仲介し,TDアメリトレード,ブラックストーン,GETCO,スチーフェル・ニコラスがナイト・キャピタルに4億ドルの出資をおこなうことで合意したという関係者の話を報じた。そして,8月6日9時22分になってナイト・キャピタルから4億ドルの協調出資が完了したことが発表された。
 2013年10月16日,証券取引委員会(SEC)は2012年8月1日にナイト・キャピタルで生じたシステム・トラブルに伴う規則違反に対して,1,200万ドルの支払いで合意に達したことを公表した。公表されたSECの処分命令の中ではじめて明らかになった事実はこれまで報じられたことのないものが多く,興味深い。本稿では,2012年8月1日にNYSEで生じたナイト・キャピタルのシステム・トラブルとその後の経過を紹介した後,2013年10月16日に公表されたSECの文書から明らかになったナイト・キャピタルのシステム・トラブルの真相について考察する。

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