第85号(2014年3月) 情報化に揺れる株式市場における様々な論点
マーケット・ポートフォリオ
倉澤資成(横浜国立大学名誉教授・当研究所客員研究員)
- 〔要 旨〕
-
マーケット・ポートフォリオは,CAPMとの関連で議論されることがほとんどである。もしCAPMが成り立てば,マーケット・ポートフォリオは効率的なポートフォリオ,すなわち,シャープ・レシオが最大となるリスキー・アセットのポートフォリオになる。さらに,マーケット・ポートフォリオの構築には特別な情報を必要としないだけではなくて,取引コストも相対的に小さいため,マーケット・ポートフォリオの保有はきわめて有力な投資戦略と考えられており,CAPMはいわゆる「パッシブ運用」の理論的な根拠とされてきた。しかし,CAPMは,必ずしも現実的とはいえない強い仮定を前提として成り立っている。さらに,実証研究の多くが,マーケット・ポートフォリオ(あるいはマーケット・ポートフォリオの代理とみなすことができるポートフォリオ)は効率的ポートフォリオとはいえない,という結果を報告している。この結果を受け入れれば,CAPMを拠り所とするマーケット・ポートフォリオの保有は根拠を失うことになる。CAPMを根拠に,マーケット・ポートフォリオの保有を正当化するのは難しいかもしれない。しかし,マーケット・ポートフォリオには,均衡における平均的な投資家が保有するポートフォリオになる,という他のポートフォリオにはない特長がある。この特長は,市場の需給均等条件だけから導かれ,その意味でマーケット・ポートフォリオの頑健な性質である。この論文では,マーケット・ポートフォリオがもつこうした性質の含意を検討し,マーケット・ポートフォリオ保有の意義を再考する。
その他の記事
-
ニューヨーク証券取引所上場銘柄における取引市場の分散化と取引コスト
—実証研究を行った論文を長期間にわたってサーベイする— - 店頭デリバティブの清算機関・取引情報蓄積機関・電子取引基盤
- 現代資本市場論の源流—ベーム=バベルク資本利子説の意味するもの—
- 中国創業板市場の新規株式公開におけるブックビルディング参加者がアンダープライシングにおよぼす影響
- ナイト・キャピタルのシステム・トラブル—SECの文書に基づく実態—
- 価格感応情報と売買停止制度—オーストラリア証券取引所の取り組み—
- 投資銀行とトレーディング業務
- アーニングスマネジメントと資本構成
- 効率的でない市場でのベンチマークの在り方—オリジナルTOPIXの擁護—
- IRとソーシャルメディアの進展