第85号(2014年3月) 情報化に揺れる株式市場における様々な論点
アーニングスマネジメントと資本構成
鈴木誠(文教大学准教授)
- 〔要 旨〕
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経営者のインセンティブ報酬としては金銭と株式に拠る場合が太宗を占める。金銭に拠る場合は,プロフィットシェアリングとよばれる業績連動報酬,株式に拠るものはストックオプションや制限付き株式などがあげられる。ただし,株式に拠る報酬の場合,その利益を実現化するまでに最低3年から5年を待たねばならず,その効果に疑問の余地がないとは言えない。そこで,これまで比較的見過ごされてきたが,エージェンシーコストとして認知されている事柄に注目した。経営者の裁量的資金利用つまりアーニングスマネジメントである。経営者は自己の目的により企業名義の小型飛行機を利用する権利,あるいは社用車,秘書の採用などを行うことが認められている。このような個人的な便益が提供されることは,個人の金銭的な報酬外の経営インセンティブとして機能すると考えられる。
ただし,たとえ業績が好調であったとしても,経営に事細かくモニタリングする株主の存在は,こうした裁量的な支出に抑制的と考えられる。そこで,実証的に経営者の裁量会計高と資金提供者によるモニタリングとの関係を検討した。検討結果によれば,わが国の機械産業において,経営者の経営インセンティブと資本構成は統計的に弱いながらも有意に正の関係が観察された。この結果は,経営者がキャッシュフローの裁量的利用を増進したいとするならば,借入にウエイトを置く資金調達手段が望ましいことを示唆している。
わが国では,金融自由化以降も負債による資金調達のウエイトが高く,これまでこの理由は長期的な契約関係に基づくメインバンク関係に求められていた。一方,経営者の報酬は先進国と比較するならば,それほど高い水準ではない。実証研究の結果である経営者の裁量的資金利用と負債による資金調達によるメリットは,これらの2つのパラドックスに対してひとつの示唆を与えるといえるであろう。
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