第86号(2014年6月)
新証券税制が家計の株式投資行動に与えた影響の研究
—基幹統計『家計調査』の個票データを用いて—
大野裕之(東洋大学教授)
林田実(北九州市立大学教授)
- 〔要 旨〕
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本稿では『家計調査』貯蓄負債編の,2002年3月〜2003年12月までの月次個票データを用いて,2003年の新証券税制の効果が家計の株式および株式投資信託保有高にどれほどあったのかを探った。具体的には,家計の実質株式・株式投信保有高を目的変数とし,株式リスクプレミアム,家計の金融資産残高,年齢,持ち家,新証券税制の定数項ダミーおよびリスクプレミアム係数シフトを説明変数とした,トービットモデル,サンプルセレクションモデルで分析した。その際,新証券税制の効果は定数項ダミーおよびリスクプレミアム係数シフトで計測した。その結果,①新証券税制の効果の有無については,上記2つのモデルで,定数項ダミーおよびリスクプレミアム係数シフトにかかる係数がともに正で,統計的に有意な係数推定値を得たため,税制改正が実質株式・株式投信保有高を高めたことが明らかになった。また,その量的効果はトービットモデルの推定結果で見ると,②定数項シフトに反映されたもので,全家計で,約9.1兆円の残高増となる。他方,③リスクプレミアム係数シフトに現れる残高増は0.5兆円に満たない。よって,④資金循環表に基づく,同時期の家計の株式・株式投信残高増約8.7兆円は,この定数項シフトによってほぼ説明できる。