第89号(2015年3月) 公社債市場の変遷を辿る
電力の自由化と電力会社経営の構造的転換
—その歴史的経緯と今後の展望—
三浦后美(文京学院大学教授)
- 〔要 旨〕
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1995年に大幅な電気事業法の改正を伴う第1次電力制度改革が実施され,現在まで第5次にわたる電力制度改革を行っている。電力卸売事業の自由化,大口需要家を対象とした小売の部分自由化などが行われた。2016年には小口・家庭用の電力小売の完全自由化が実施される予定である。これまでの電力制度改革の成果は一定の評価を得ているものの,市場での競争性という視点から見ると,新電力の市場シェアの低迷など,十分な効果をあげているとは言えない。
2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島原発事故後の電力需給ひっ迫などを理由に,その後の日本電力業の経営体制のあり方が問われることとなった。経済産業省の「電力システム改革専門委員会」において検討が進められ,2013年2月に『電力システム改革専門委員会報告書』がとりまとめられた。同報告書では,電力小売の全面自由化,総括原価方式に基づく料金規制の段階的廃止,卸電力市場の活性化,卸規制撤廃による発電分野の市場活性化,広域系統運用機関の設立,法的分離による発送電分離の推進などが提言された。段階的に実施する。
戦後日本の電力会社経営は,垂直一貫体制と総括原価による料金規制を前提とした一般電気事業者(電力会社)の資金調達環境を大きく変化することとなる。巨額な設備投資を必要とする電気事業の特性に加え,一般電気事業者(電力会社)が発行する電力債の一般担保条項が見直しされ,いま電力会社経営は構造的な転換期をむかえる。
本論では,日本電力業の歴史と戦後の電力制度改革の経緯を概観し,今まさに小口・家庭用の電力小売分野の完全自由化をはじめとした電力システム改革が進行する中で,本当に低廉で安定的な電気供給という電力会社の本来の使命を果たしていけるのか,これまでの一連の経営行動をみるに,はなはだ懐疑的である。また,今後予想される電力会社間競争,電力会社と異業種からの新規参入事業者との熾烈な競争などから見えて来るものは,電力市場,エネルギー市場の活性化に繋がるとする意見とは逆に,東京電力㈱を筆頭とした巨大な電力会社の誕生,あるいは電力会社とガス会社との結合体のような総合エネルギー会社の誕生などの組織による消費者不在で,彼らだけの“漁夫の利”が見え隠れしている。新たな均衡がとれた電力・エネルギー会社経営の可能性と地域特性を生かした本格的な市場競争を期待するものである。