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第89号(2015年3月) 公社債市場の変遷を辿る

ヘッジ・ファンドのテール・リスクについて

福田徹(当研究所主任研究員)

〔要 旨〕

 ヘッジ・ファンドの定義の1つとして,絶対収益を追求すると言うものがある。つまり,どのような投資環境下においても,幾ばくかのプラスの収益を上げることが要求されると言う考え方である。さて,過去を振り返ると,ヘッジ・ファンドはその定義通りに収益を上げてきたのだろうか。ほとんどの期間については,その通りであったと評価されよう。ただし,市場急変動期については,その様相が異なってくる。例えば,アジアおよびロシア通貨危機に前後して突然破綻したLTCM(Long-Term Capital Management)の事例は良く知られたところであるし,サブプライム・ショックからリーマン・ショックに至る金融危機の過程でも同様の現象が見られている。つまり,絶対収益の獲得を実現し続けているヘッジ・ファンドが,突然破綻すると言う事例が少なからず存在するのである。
 その理由としては,ヘッジ・ファンドがテール・リスクを負う傾向にあることが挙げられる。テール・リスクとは,投資収益率の確率密度分布の度数において,同一の平均値を持つ正規分布と比較するとその両端における裾の部分が厚くなっていると言う状態を表現しており,特に左側の部分を指すことがほとんどである。そして,最近登場した様々な金融商品を組み合わせて,ほとんどの場合で安定的に収益を上げられるものの,破綻する微小の可能性を抱えるように投資対象の選択を行っているヘッジ・ファンドが存在していると指摘されるのである。それだけでは無く,借入れを行って収益のみならずテール・リスクの増幅を行っているものがある。また,運用に供している新しい金融商品の投資収益率の確率密度分布を十分に把握しておらず,感知していない大きなテール・リスクに晒されている場合もあるだろう。
 なお,テール・リスクを計量化するためにいくつかの指標が提案されている。主だったところでは,歪度(skewness)や尖度(Kurtosis)といった確率密度分布の形状を示すためのもの,バリュー・アット・リスク(Value at Risk)や期待ショート・フォール(Expected Shortfall)といった被る可能性のあるテール・リスクの度合いをそれぞれの観点から数値化したものなどが挙げられる。

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