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第92号(2015年12月)

金融機関のガバナンス構造と金融システム危機

佐賀卓雄(当研究所理事・主任研究委員)

〔要 旨〕

 2007−08年の金融システム危機の勃発以前には,企業会計スキャンダルの露見の度に,そのガバナンス構造の改革機運が盛り上がり活発に議論されてきたものの,金融機関のガバナンス構造はそれほど本格的に分析されることはなかった。ましてや,投資銀行のガバナンス構造についてはほとんど取り上げられることはなかった。
 これは金融機関がその独特の経済的機能から,様々な金融規制が課せられ,厳しい監督の下に置かれ,システム全体が動揺に曝される危惧がある場合には公的な介入によって安定が図られたため,深刻なガバナンス上の問題が発生しなかったことによる。
 しかし,金融システム危機の勃発は震源の中心であった金融機関のガバナンス問題に対する関心を高め,金融規制改革の重要な課題の一つとして,それに関連するあらゆる側面について理論的および実証的分析が行われてきた。特に,CEOの報酬,取締役会の規模,その構成(独立取締役の割合,金融の専門性の有無など)と,リスク・テイクの度合や企業パーフォマンスとの関連などである。
 これらの分析の結果は多様であるが,取締役会の規模および構成と,パーフォマンスおよびリスク・テイクとの関係については,これまでと比較してより詳細かつ含蓄の深い分析結果が提示されている。グローバルに事業展開している巨大金融機関の業務および商品・サービスが不透明性を高めているにもかかわらず,SOX法やDF法によるガバナンス規制の強化が金融業務や商品・サービスについての専門性を欠如した取締役会の出現をもたらし,パーフォマンスにネガティブな影響を及ぼしているとの一部の実証研究の指摘などは傾聴に値する。ガバナンス規制強化の方向性を再検討すべきであろう。

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