第94号(2016年6月)
取引の高速化と株式取引の実態
—東京証券取引所の注文板差分データを用いた実証分析—
福田徹(当研究所主任研究員)
- 〔要 旨〕
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テクノロジーの進展によって株式取引の実態が大きく変化している。その1つの例が高速かつ高頻度で株式の売買を行う高頻度取引業者である。高頻度取引は従来の株式取引の戦略と異なったものとされ,専門家だけでなく多くの人々の興味を引いている。
我が国および欧米において,少数ながら高頻度取引に関する実証研究が行われている。それらにおいては,様々なデータを用いて指標を作成した上で高頻度取引業者を特定化している。つまり,高頻度取引業者の取引戦略を最も把握できるものを見出しているのである。
本稿では,日本取引所グループから提供された注文板差分データを利用して,サーベイした実証研究を参考にしながら最近の株式取引の実態を考察した。実証分析の方向性としては,売買代金の差違がもたらす取引戦略への影響,もう1つは現在が過去と比較してどの程度変化したかということに主眼を置いている。
なお,結論としては,高頻度取引のような取引戦略を持つ発注者は,売買代金の大きい銘柄だけで無くそれ以外の銘柄にまで手を広げている可能性および2015年6月時点における発注者および取引戦略は,2011年1月と比較すると大きく変化している可能性を確認することが出来た。また,最もレコード数の多い仮想サーバの実態を観察すると,明確な取引戦略を採用しているものの多いことが指摘される。