第96号(2016年12月)
金融サービスに対する最適課税
—取引費用アプローチによる検討—
高松慶裕(静岡大学学術院准教授)
- 〔要 旨〕
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本稿は,金融サービスに課税することが理論的に望ましいのかという論点に対して,複数家計を前提とした非線形労働所得税と線形消費税のタックス・ミックスの下で,Lockwood[2010]の取引費用アプローチ(財を消費する際に取引時間を必要とし,金融決済サービスはその取引時間を節約できる)を用いて検証する。金融決済サービス手数料に対しては他の財・サービスと同様に一律税率課税,スプレッドに対しては非課税とすべき(Jack[2000],Boadway and Keen[2003])といった結果は,財消費の取引時間を考慮しないならば,効用関数の弱分離可能性を前提に妥当性を持つ。一方,取引費用アプローチを採用すると上記の結果を得ることはできない。金融サービスが取引時間に影響しない場合に,財を一律税率課税するならば,スプレッドは補助すべきであり,金融サービスが取引時間に影響する場合には,他の財と比較して金融決済サービスを軽課すべきことが明らかとなる。