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証券経済研究 第81号(2013年3月)

東京電力(株)における信用力低下とその構造的危機

三浦后美(文京学院大学教授)

〔要 旨〕
 格付会社による東京電力(株)の社債格付けは,原発事故のリスクを受け,一気に格下げ方向での見直しへとむかった。今後,福島第一原発廃炉費用の資金は,数兆から数十兆円の費用がかかるとも予想されている。東京電力(株)だけの自力で捻出できるものではない。その結果,東京電力(株)の経営陣は,責任回避から自力での再建をあきらめ,公的資金導入を余儀なくされ,いち早く国有化の道を辿った。原子力損害賠償支援機構と東京電力(株)による「総合特別事業計画」で万全な賠償・除染・廃炉を実行するというやり方である。すでに,事業計画それ自体が見直しを迫られる。
 東日本大震災は発生当初,想像を超えた自然災害であり,東京電力(株)の原発事故は「想定外」であると位置づける意見が多かった。本論文の立場は,その原因の本質を一過性の事故と考えていない。日本の電力会社の特殊な経営財務構造から必然的に生じたもので,とりわけ東京電力(株)のリーディング・カンパニーとしての役割が重い。日本の電力産業の特殊性は,①民営公益事業方式,②商品の差別化は不可能(同質性),③電気は在庫の持てない商品(非貯蔵性),④恒常的に設備投資が求められている点にある。特に,民営公益事業方式は日本独自のやり方で「私企業性」を持つ株式会社が社会基盤としての「公益性」の高い電力事業を行うというもので,電力会社だけに与えられた経営形態である。電力会社経営の巨大な設備投資資金は電力債の歴史的な優遇策によって保証されてきた。電気事業法に基づいて発行される債券で,社債の発行する電力会社の全財産によって,他の債権に優先して弁済される権利が付いている。
 電力会社の経営戦略は一般の事業会社とは大いに異なっている。たとえば,電力料金の改定,将来の設備投資計画,電力産業の経営計画に関連するエネルギー政策など,重要な経営戦略のほとんどは政府の了承,承認を必要とする。現実の経営陣にはリーダーシップが求められていない組織のようでもある。時に,先の民営公益事業方式に極度の競争論理を意図的に排除した場合,組織はネガティブな経営行動を取る。
 東京電力(株)の歴代の会長,社長等経営陣は,その多くの選出で独自性を主張するような人物を望まず,常に,政官民と一体となった利害調整型の人物が選ばれてきたといわれる。ここでは,東京電力(株)の発展において抜きんでた経営者とされる,4代社長木川田一隆と6代社長平岩外四が歩んだ道に改めて学ぶ。熾烈な企業間競争の中で育んだ彼らの企業家精神は,いまや希薄になっていると考えられる。東日本大震災に伴う東京電力(株)福島原子力発電所事故は,歴史的に組織が持っていた政官民のもたれ合い構造を顕在化させた。東京電力(株)の経営財務戦略は構造的危機に陥っている。

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