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証券経済研究 第95号(2016年9月)

ギリシャの銀行危機長期化と政策対応

土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部研究員)

〔要 旨〕
 ギリシャの銀行危機は,政府部門の累積債務問題という銀行部門にとって真に「外生的」な要因によって引き起こされた。したがって,その銀行危機は政府部門の累積債務問題の展開に従属する関係にあると整理され,この点において他の重債務国と銀行危機の性質を著しく違えている。
 銀行危機長期化の背景分析を危機対応の不適切という評価軸から,さらにそれを個々の戦術と全体の戦略の2つのレベルに分けて論じると,前者に関しては,EUによる強いコントロールという制度的な制約のためにギリシャ当局が十分な政策対応を採ることができなかったことが,銀行危機の長期化をもたらした大きな理由になっている。さらに後者については,EUがギリシャ政府のエージェンシーコストの軽減に努めようとした結果,かえって銀行危機への対処コストが増大したと理解できる。
 ギリシャの銀行危機が投げかける問題は,経済通貨同盟の下で政策の裁量を失った構成国に対して,経済通貨同盟そのものがどのような政策支援を行うべきかという論点である。ギリシャの経験に基づけば,少なくとも依頼人である経済通貨同盟の代理人である構成国の政府が支払能力危機に陥っている事態においては,経済通貨同盟に対して,構成国の政府のモラルハザードに伴うエージェンシーコストよりも,構成国の銀行危機の長期化に伴う対処コストへの負担の方が重く圧し掛かるリスクが高いということに尽きよう。

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