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証券経済研究 第98号(2017年6月)

政府の累積債務問題と証券市場の機能低下—ギリシャのケース—

土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部研究員)

〔要 旨〕
 本稿は,ギリシャの証券市場が持つ実体経済への資源配分機能が変化していった過程を時系列的に分析することを通じて,同国政府の累積債務問題が証券市場に与える影響を考察した。
 第一段階(09年10月〜11年)では,証券市場が,累積債務問題の悪化を受けて,政府と銀行による資金貸借の場としての役割を強めたことを確認した。そして証券市場が本来担う資源配分機能が,累積債務問題の悪化を受けて著しく低下したことを指摘した。続く第二段階(12年〜14年)では,証券市場の実体経済に対する資源配分機能の回復が債券市場では進まなかったものの,株式市場ではその萌芽が見られたことを確認した。そして累積債務問題が小康状態を保つことができたなら,回復の動きのすそ野が債券市場にも広がった可能性があったと指摘した。さらに第三段階(15年〜現在)では,政治不安の中で再燃した累積債務問題を受け,株式市場を中心に回復しつつあった証券市場の資源配分機能が再度低下することを余儀なくされたと評価した。
 以上を総括し,累積債務問題下のギリシャで生じた証券市場の機能低下のプロセスは,経済通貨同盟(EMU)による危機対応策が構成国の経済の現状との間で動学的不整合性を持つことを端的に物語る事例であったと位置付けた。そうした不整合性のために,EMUに属している経済の方が,EMUに属していない経済よりも,累積債務問題に伴う証券市場の機能低下が一段と深刻になる可能性があることを指摘した。

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