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証券経済研究 第106号(2019年6月)
ユーロ危機の複合性
入江恭平(元中京大学経営学部教授)
〔要 旨〕
異説はあるもののユーロ危機をギリシャ国債の暴落=利回りの高騰→ソブリン債務危機に求める見解が一般的である。しかしユーロ危機をもたらした背景を考えると,ユーロ導入から時をおかず2000年代に展開された信用拡張を梃子にした投資・消費ブーム=バブル経済の発展と崩壊に行き着く。とくにユーロ周辺国へのブームとバスト(崩壊)を誘引したのは内外からの銀行による信用供与であった。
米国に端を発する世界金融危機(great financial crisis)の予兆はドイツやフランスなどの欧州中心国で始まった(2007年)。その際,とくにアイルランド,スペインでは国内銀行が資金調達を依存していた国際的インターバンク市場が麻痺して,早くもECBからの流動性供給を受ける。バブルの崩壊で「ホームメード」の銀行危機が進行したなかで,流動性危機は本格的な銀行倒産,さらには銀行の国有化をもたらす。
リーマンショック後の2008年10月から欧州も本格的な不況(great recession)に突入するが,この過程でユーロ周辺国の財政赤字や政府債務負担が急増する。とくに銀行への資本投入を行ったアイルランド政府やスペイン政府の財政悪化は顕著であった。これに対して,ユーロ危機の発端となったギリシャでは銀行危機→ソブリン債務危機という道筋ではなく,まずソブリン債務危機が突発したという点で特異であった。
ソブリン債務危機が銀行危機を惹起するのはさしあたり銀行の資金調達市場を介してである。この点をギリシャの銀行,ギリシャ中央銀行を対象に検討した。
その際,ギリシャ中央銀行に形成されるTARGETバランスに注目して,その機構的前提でTARGRTシステムから説き起こした後,ユーロ導入から2006年頃まではほぼ均衡していたTARGETバランスが不均衡に転じた背景を検討した。
最後にTARGETバランスと国際収支との関係をスペインを例に検討した。
その際,スペインのTARGETバランスの形成がどの国際収支項目によって規定されるかに注目した。
ユーロ危機は銀行危機,ソブリン債務危機,国際収支=金融収支危機が密接に関連して発現,展開され,TARGETバランスの不均衡の解消にみられるように2012年頃,一応の終息をみる。
しかし,ユーロ危機の震源地と目されるギリシャの実体経済に目をやると危機は終焉するどころか長い不況と停滞を続けたことがわかる。
ギリシャは2010年5月,EU,IMF,ECBからなるいわゆるトロイカから第一次の金融支援を受けた後,2012年3月に第2次金融支援,2015年8月には難航した交渉のすえ第3次金融支援がうけた。8年間の融資総額は2,890億ユーロにも達した。そしてこれらの金融支援支援にはいわゆるコンディショナリティー(融資条件)が付随しており,その主な内容は緊縮(財政)政策であり,構造政策であった。このうち,債務国ギリシャを最も苦しめたのは緊縮(austerity)政策であった。緊縮政策が不況期に導入される順景気循環的(procyclical)な財政政策であり,アメリカのニューディール期以降に登場するケインズ主義の反循環的(countercyclical)な財政政策とは正反対のものである。
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