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証券経済研究 第108号(2019年12月)
アメリカ株式市場における公募・私募の境界の曖昧化について
佐賀卓雄(当研究所特任研究員)
〔要 旨〕
1990年代後半より現在に至るまで,アメリカ株式市場においては上場会社数がほぼ一貫して減少している。これを受けて,議会,政府,規制当局はこれまで株式市場の活性化策を実施してきた。
上場会社数の減少の原因としては,IPOの減少やM&Aによる上場廃止などがあげられてきた。規制強化による上場会社の減少としては,2002年のSOX法に基づく内部統制報告書の提出の義務づけがしばしば指摘されるが,上場会社数の減少は1997年より始まっており,時期的にズレがある。また,統計的にもSOX法を契機にIPOの減少や上場廃止の増加という事実は確認できない。同じように,2012年のJOBS法も中小のIPOの増加には結びついていない。
上場会社数の減少は,株式市場の構造変化から生じる様々な要因が絡み合っており,特に私募市場の規制緩和により公開市場との境界が曖昧になっていることが大きい。非上場会社が既存の上場会社を殻会社(shell company)として,それに買収された後に社名を変更して上場会社に変身するという,裏口上場(backdoor listing)も増加している(reverse merger)。また,金融的に困難に陥った上場会社が私募で資本調達する一方で,あらかじめ発行登録の手続きも行って投資家が短期の転売によるリスク回避の道筋をつけることが行われたりする(private investment in public equity)。
このような金融取引は公募と私募の境界が曖昧になっていることを示しているが,これらのことが上場会社数の減少として現れているのである。さらに,非公開株の流通市場も形成されており,この面でも公開市場との差異は小さくなっている。また,同じく私募市場の規制緩和によって,ヘッジ・ファンド(HF),ベンチャー・キャピタル(VC),プライベート・エクィティ(PE)などの専門性の高い投資家の資金力が強化され,エグジット(出口)としてのIPOを急がなくなっている面もある。ユニコーンが増加しているのも同じ理由による。
ソフトウェア,コンピュータなどの先端技術部門のスタートアップ企業の間では,IPOにより十分な知識のない投資家が増加するのを敬遠する傾向もあるという。むしろ,GAFAなどの大手情報関連企業に買収されることを名誉と考え,M&Aが重要な出口戦略の一つになっている。
このように,IPOの減少,上場会社数の減少は様々な要因によってもたらされており,株式市場の規制の見直しだけでは対応できない問題である。その場合でも,資本形成と投資家保護のバランスという証券規制の基本的視点は遵守されるべきである。
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