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出版物・研究成果等

証券経済研究 第13号(1998年5月)

日本における金融政策のLending Channel

中川竜一(広島経済大学講師)

〔要 旨〕
 金融政策の有効性の概念として,credit viewは近年大きな注目を集めている。credit viewとは,中央銀行が民間経済主体の信用供給を直接コントロールし,借り入れ依存度の高い経済主体のfinancial availability,さらには投資行動を刺激・抑制することができる,という概念である。とりわけ,代表的な資金供給主体である銀行部門に着目したものは,lending viewと呼ばれている。
 銀行は,貸出を行うとき,預金・短期金融市場等から資金を調達しなければならない。しかし,借り手のdefault riskに関する情報が不完全な場合,資金調達コストは,借り手銀行の自己資本比率など,バランスシート(B/S)構造に大きく依存する。したがって,金融市場において情報の不完全性が高いとき,中央銀行は,B/Sに働きかけることによって,銀行の貸出能力をコントロールすることができるのである。
 1980年代以降,日本において,銀行貸出に対するB/Sの影響は次第に拡大し,マクロ的に見て,lending channelは金融政策の重要な波及経路となりつつある。また,中小の銀行部門ほどlending channelの影響は大きく,銀行部門の情報量がlending channelの有効性を左右している。
 一方,lending viewが成立するとき,金融緩和政策が銀行の貸出能力を抑制する可能性がある。貸出金利が市場金利に対して敏感に反応し,逆に,銀行預金が市場金利の低下に対して容易に拡大しないとき,金融緩和は貸出収益の拡大に直結しないからである。とりわけ,信用不安から外部金融のプレミアムが拡大しているとき,収益の大部分をそういった情報コストに費やすことになり,銀行の資本蓄積を遅らせるからである。その結果 ,長期的には,市場金利の低下が貸出供給能力を抑制することになるのである。

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