トップ  >>  出版物・研究成果等 >> 証券経済研究 1998年度 >> 第15号(1998年9月)

出版物・研究成果等

証券経済研究 第15号(1998年9月)

「新興市場」と資本自由化-経済改革下のインドを事例として

佐藤隆広(同志社大学大学院)

〔要 旨〕
 インドの経済改革は,国際通貨基金(IMF)・世界銀行との提携下で1991年7月にスタートした。経済改革下で実施された資本自由化は,1993年度以降において外国直接投資(FDI)・外国証券投資(FPI)・非居住者インド人(NRI)預金の顕著な流入をもたらし,独立後最高水準の外貨準備残高に帰結した。このような状況を踏まえて,1997年6月にタラポール委員会は資本流入規制の緩和だけでなく流出規制の大幅緩和を含む画期的な資本自由化の実施を勧告した。このような資本自由化は先進諸国における「新興市場」ブームを背景に持っている。
 インドへのFDI・FPI・NRI預金を分析した結果,以下の諸点が明らかになった。(1)FDIはインフラ産業に集中しており国内市場志向である,また国内の大幅な地域間格差をもたらす可能性がある,(2)FPIは外貨準備残高急増の重要な要因である一方,株式市場のボラティリティを高めている,(3)NRI預金はとくにルピー建て預金が1996年度に著増するがこれは同預金への各種優遇措置が実施され,名目為替レートが相対的に安定していたことによる。
 また,1993年-1997年の期間における為替レートと短期金利の動向を分析した結果 ,以下の諸点が明らかになった。(1)為替レートが大幅に減価するのを避けるために実施される外国為替市場への政府介入は,短期金融市場の流動性逼迫をもたらし,ときには短期金利が年率100%にまで達することがある,(2)不胎化操作はこの短期金利を沈静化させるに十分なものではなかった,(3)為替市場への介入とともに,資本流入規制の緩和が実行されている。
 さらに1993年度以降,貿易収支赤字が顕著に増大しているにもかかわらず,資本流入が持続しているため,実質実効為替レートが十分減価していないことが指摘されている。これは資本流入を円滑に維持するために,インド政府が対ドル・レートに自国通 貨ルピーを事実上ペッグしていることが重要な要因である。ここから,メキシコやタイの通 貨危機のシナリオ,すなわち「経済改革による外資導入推進→外資流入→実質為替レートの増価→経常収支赤字の悪化→名目為替レート減価予想の成立→外資逃避→国際収支危機勃発」が想起され,インド経済も近年の通 貨危機とは決して無縁ではないことが明らかになった。
 本稿においては,通貨危機が政府の失敗と市場の失敗が複合しているあるいは相互作用しているという観点が,経済改革下のインドを事例にした数量 分析と制度分析を通じて強調されている。

お探しの出版物が見つからない場合は「出版物検索」ページでキーワードを入力してお探しください。