トップ  >>  出版物・研究成果等 >> 証券経済研究 1999年度 >> 第17号(1999年1月)

出版物・研究成果等

証券経済研究 第17号(1999年1月)

ITSの拡大とアメリカの全米市場システム

清水葉子(大阪研究所研究員)

〔要 旨〕
 市場間注文回送システム(ITS)は,アメリカの全米市場システムの具体化の中核とも言うべきシステムである。市場間の競争を促進することによって公正で効率的な証券市場を実現するという全米市場システムの理念を実現するためには,市場での価格や気配情報の伝達に加えて,最良価格の出ている市場に実際に注文を回送する手段が確保されていることが不可欠であるからである。
 しかしながら,1975年の証券市場改革以来推進されて来たITSの拡大には,実際には様々な障害があり,順調に進んだとは言えない。まず,取引所市場と店頭市場の連結に際しては,顧客の指値注文の保護をいかに確立するかという点に関して,オークション市場とディーラー市場の取引ルールの違いをめぐって対立が生じた。また,自動執行システムを採用している市場の連結も,そうした自動システムが立会場廃止につながることをおそれた取引所の反対のために,容易に実現しなかった。また,ITS端末の管理に関しても厳格な定めがおかれてITSの柔軟な取扱いがさまたげられているが,これもITS端末の利用の拡大が取引所会員権の実質的な濫用につながることを防ぐための措置であった。
 SECは,当初ITS構想として,取引所外取引制限を完全に撤廃してすべての市場をITSで連結すること,顧客指値を中央指値注文ファイルに集中して顧客指値の完全保護をはかること,注文の回送はブローカー・ディーラーから各市場への直接回送を行うこと,という3つの方針を持っていたが,ITSの成立,拡大の過程をみると,このどれも完全には実現しない形に変形してきてしまったことが分かる。こうした変形の背後には,そもそも従来の取引所というシステムとITSとのあいだにしだいに矛盾が生じて来ていることがあるのではないだろうか。

お探しの出版物が見つからない場合は「出版物検索」ページでキーワードを入力してお探しください。