出版物・研究成果等
証券経済研究 第19号(1999年5月)
地方銀行の株主としてのグループ金融機関
斎藤達弘(新潟大学助教授)
〔要 旨〕
本稿の目的は,本邦地方銀行について,大手金融機関株主の中から企業グループに所属する都市銀行と生命保険会社をグループ金融機関株主として取り上げ,それらの株主が貸出行動にどのような影響を与えているのか,また株式市場はそれらの株主の存在をどのように評価しているのかをパネル・データを用いて検証することにある。本稿では,次の三点について検証する。
第一は,同じ企業グループに所属する都市銀行と生命保険会社の地方銀行に対する株式所有がどのような関係にあるのかである。同じ企業グループに所属する都市銀行と生命保険会社の株式持ち分比率の間に正の相関関係が観察できれば,企業グループとしての協調的行動が存在している可能性を示唆している。この解釈には,そもそも企業グループは緩やかな関係にあり,地方銀行の株式所有について協調的行動をとるようなことはないという反論が予想される。しかし,協力しようと考えれば容易に協力できる関係にあることも事実だろう。あるいは,地方銀行を通 した地域ビジネスの展開という企業グループ戦略の存在も考えられよう。
第二は,都市銀行や生命保険会社の株式所有が地方銀行の貸出行動に影響を与えているのか,与えているとするといずれの影響が強いのかである。具体的には,株式持ち分比率と企業グループの系列企業への貸出比率および業種別 貸出比率との関係を検証する。同じ企業グループに所属する都市銀行と生命保険会社が協調的に行動しているかどうかは,それらの推定結果 により推測することができる。
第三は,株式市場がそれらの株主の存在をどのように評価しているのかである。これは,株式持ち分比率と地方銀行の株式のβ値の関係を検証することにより推測できる。
分析結果は次のようである。貸出行動については都市銀行の影響が多く観察できるものの,その影響の強さでは生命保険会社の方が大きい。株式市場は,地方銀行を評価するさいに,都市銀行と生命保険会社の株式持ち分比率をそれぞれに評価している。
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