出版物・研究成果等
証券経済研究 第26号(2000年7月)
証券取引所の市場情報収入
清水葉子(大阪研究所主任研究員)
〔要 旨〕
アメリカでは,証券取引所やナスダックが,市場での価格情報や気配情報を配信することで会員証券会社や情報ベンダーから大きな手数料収入を得ているが,近年,こうした証券取引所などの市場情報手数料収入に対して,課金体系やコスト配分と言った観点から見直しを求める動きが強まっている。これは,取引所の市場情報が独占的性格を持ちやすく取引所に超過利潤をもたらしているのではないかという懸念や,オンラインブローカーの増加によってリアルタイムの価格情報の需要が急増し,従来とコスト負担のあり方が変わってきたことが背景にあると考えられる。
本稿では,市場情報手数料の問題について,まず現在の課金体系を検討するとともに,取引所の収入構成の中で市場情報手数料収入が極めて大きな位 置を占めていること,市場間競争の中で戦略的・営利的な性格を強めてきている取引所にとって,市場情報収入が重要な「商品」となりうることを見る。
続いて,取引所が市場情報手数料収入を得る上で,問題となっている点を2つに分けて検討する。第1に,市場情報のコストがはっきりしない点である。市場情報のコストは,狭義には市場での価格や気配の情報を集め,加工し配信するシステムを運営・管理するためのコストであると考えられるが,さらに広義には市場での不正取引を監視したり会員の行為を規制監督することも,信頼性の高い価格情報の配信に間接的に貢献していると見ることもできるからである。
第2に,市場情報の所有権の問題である。証券取引所法では,証券取引所が市場情報に関して一定の管理権限を持ち適切な配信のコストを回収するための手数料を徴収することを認めているが,市場情報が誰のものであるかという問題は解決していない。市場情報は,確かに取引所で行われる取引によって生まれるが,それをつくり出しているは会員証券会社や顧客の取引注文である。情報化が進んで,情報の引用や加工が極めて容易になっていることもこの問題に大きな影響を及ぼしている。
お探しの出版物が見つからない場合は「出版物検索」ページでキーワードを入力してお探しください。