出版物・研究成果等
証券経済研究 第30号(2001年3月)
日本の社債金融と債券格付けの役割
三浦后美(文京女子大学教授)
〔要 旨〕
日本企業の外部金融は,世界的なディスインターミディエーション(銀行離れ)という流れに沿って一層,社債金融化の進展を強めた。わけても,バブル経済崩壊後の90年代に入ってエクイティ・ファイナンスに取って代わったのがデット・ファイナンスの普通 社債市場である。この日本の普通社債市場が1996年の適債基準の撤廃を受け,いま大きく変わろうとしている。戦後一貫してきた電力債中心の市場から一般 事業債の市場へと変化し,株式会社財務の中核を成す。さらには,近時,日本の普通 社債市場の特異性という形で,1999年の規制緩和で誕生した銀行債,ノンバンク債が直近の発行市場の4割近くも占めてしまっている状態である。
いま一つ注目すべき点は,個人投資家向けの社債発行が増加していることである。社債権者のおかれた立場は一様ではない。普通 社債発行市場の現状は,規制緩和とともに質・量とも大きく変貌を遂げてきているものの,社債権者保護の観点では信用リスクを個人投資家に集中して負わせ兼ねない不平等な自己責任原則が見え隠れしているように思えてならない。自由化後あらわれたFA債(社債管理会社不設置債)の台頭と「財務上の特約」条項の多様化は,発行会社により優位 に展開している実態である。なかでも担保提供制限条項が極めて重要な意味を持ってきている。その動きは,社債権者の地位 をより弱い立場に追いやり,本来の社債権者保護を指向した考え方からほど遠く,ますます発行会社の優位 性を強化するための歩みである。
1996年1月の適債基準が完全撤廃させた以後の日本での社債市場がデフォルト・リスク(defaut risk)を顕在化させたことによって,第三者機関である格付機関が行ってきた債券格付けは,より一層重要性を増してきている。しかしながら,近時にみる資産担保型証券の出現は,債券格付けをさらに多様化させ,また第三者機関としての格付機関の立場を複雑化させている。これまでの債券格付けのプロセスとはその性格を多いに異にするものである。日本企業の社債金融化は,資産担保型証券の出現によって,まったく新しい発展段階を迎えている。
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