出版物・研究成果等
証券経済研究 第42号(2003年6月)
イギリスにおける金融サービス補償制度の統合
斉藤美彦(獨協大学教授当所客員研究員)
〔要 旨〕
イギリスにおいては2000年金融サービス・市場法(FSMA)が成立・施行され,金融サービス業全体の規制・監督が金融サービス機構(FSA)という単一の機関により行われる体制が確立した。FSMAの目的としては,(1)金融サービス部門の信頼性維持,(2)金融サービスに対する国民の意識の向上,(3)消費者保護,(4)金融犯罪の減少が挙げられているが,このうちの2つは消費者に焦点を絞ったものである。FSA体制下において消費者は金融サービスに関する問い合わせや苦情がある場合には,まず消費者相談所(PEO)に問い合わせ等を行うことができる。また,消費者が金融サービス業者との間で紛争が生じた際には,裁判よりも簡便な紛争処理機構としてのオンブズマン制度が従来から各業態・業務毎に設けられていたが,FSA体制下においては従前の8制度を統合した金融サービス・オンブズマン制度が設けられた。そして,業者が廃業したり倒産した場合に消費者にたいする補償を行うものとして金融サービス補償機構(FSCS)が,2001年12月に従前の業態・業務別 の8機構を統合して本格的にスタートした。FSCSは,(1)預金等,(2)保険,(3)投資関連の3つのサブスキームに分かれている。
この体制下ではFSAは消費者教育については直接担当するが,消費者保護に関しては統合されたオンブズマン制度と金融サービス補償制度を運営する別 組織の独立した法人にまかせ,それらの法人をFSAが管理するという役割分担となっている。こうした全体的な機構のなかでFSCSはその役割を果 たすことが求められているわけであり,このような体制は世界的にみてもユニークなものである。
さらにイギリスの制度において特徴的なのは,預金補償制度が文字通り個人零細預金者保護のためのものとして位 置づけられているという点であり,それが事後的セーフティネットとしての意味しか期待されていないということである。ここには暗黙の了解事項として制度が予想する破綻は小規模預金取扱金融機関のみという大前提が存在する。したがって大規模預金取扱金融機関の制度への拠出を抑えるための種々の工夫がなされているわけであり,制度を限定的なものとするという姿勢がはっきりとしており,それはイギリスの金融構造にも由来するものなのである。
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