出版物・研究成果等
証券経済研究 第46号(2004年6月)
1970年代のアメリカの国債政策:インフレと財政規律
渋谷博史(東京大学教授当所客員研究員)
〔要 旨〕
1970年代は,財政赤字と強インフレが税制と国債政策の両面に大きなインパクトを与えた。財政赤字の累積はストックとしての国債残高を膨張させ,その結果,フローとしての国債利子支払いも増加して,財政構造や金融証券市場を硬直化させることで,やはりその無理から財政規律を求める圧力が強まるはずであったが,強インフレ下ではいわゆる債務者利得が発生し,過去の財政赤字である現在の国債残高の実質価値は目減りしつづけ,その結果,現在における利子支払いが財政全体に占める比重もさほど増加しなかった。有効なインフレ抑制策が実施されないということは,莫大な国債発行があるにもかかわらず,民間資金需要が満たされるように緩和基調で金融政策が運営されることを意味する。国債発行によるクラウディング・アウト現象が生じないのであるから,財政規律への圧力も強まらない。
ところが,戦後の「豊かな社会」で次第に勤労大衆の階層の現役及び引退世代が「小貯蓄者」(small saver)となり,インフレによる債務者利得は不利に作用するになったので,金融政策の規律を求めるようになる。「小貯蓄者」として資産価値がインフレで目減りするのを嫌う立場に転じたのである。1979年10月にボルカー議長の「新金融政策」が導入され,その結果,国債残高や国債利子支払いのチェック機能も回復する道筋がつけられた。金融政策の規律から財政規律も要請された。
1980年代のレーガン政権期における貯蓄と投資を重視するサプライサイド的な政策システムへの転換の前史という問題意識で,1970年代の国債政策を検討するのが本稿の目的である。
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