トップ  >>  出版物・研究成果等 >> 証券経済研究 2004年度 >> 第47号(2004年9月)

出版物・研究成果等

証券経済研究 第47号(2004年9月)

最適満期構成の理論的考察―新発国債の需要と供給―

須藤時仁(当研究所主任研究員)

〔要 旨〕
 本稿の目的は,国債の発行に係るコスト最小化とリスク抑制を達成するための発行(満期)政策を理論的に考察することである。その前半では,政府の予算制約に基づき,国債発行に係るコストとリスクの合計が最小となる最適満期構成(発行ベース)を導出し,次いで標準的なポートフォリオ理論に基づき,新発国債への投資に係る投資家の効用(期待収益率)が最大となる需要ベースでの最適満期構成(最適投資ポートフォリオ)を導出した。これらの最適供給構成と需要構成から各々7命題,2命題が導かれたが,特に,「国債の発行量を増加せざるを得ないとき,政府は短期的な償還負担およびそれに伴う税率引き上げを避けるために長期債の発行比率を上昇させるのに対して,投資家は政府に対する中長期的観点からの信用リスク増大を懸念して中長期債より短期債への選好を強める」という特徴が見出されたことは,わが国の現状に照らして注目される。したがって,この場合には満期ごとに(特に短期債と長期債で)需給のミスマッチが生じることとなるが,この問題については本稿の後半で分析した。
 後半では,政府の最適供給構成と投資家の最適需要構成に基づいて満期構成の均衡経路を導出し,さらに短期債と長期債で需給が不均衡となった場合に政府がどのような発行(満期)政策を採るべきかを分析した。分析から得られた重要な結論は以下の2点である。第1に,金利の期間構造における純粋期待理論が常に成立する場合でも,発行コストの最小化に加え課税変化に対するリスク抑制を国債管理政策の目的に含めたときには,国債発行の満期構成は管理政策の目的に対して必ずしも無差別ではない。発行コストの最小化のみを目的とした場合には,純粋期待理論の成立は満期構成の無差別を含意するから,政府および中央銀行によるイールド・カーブの管理が国債管理政策を意味することとなる。このことは,たとえ課税変化に対するリスクを考慮した場合でも,国債発行量の対実質GDP比d が低水準で安定しているときには妥当する。しかし,d が極めて大きいときには,将来の課税変化のリスクを抑制するための最適満期構成を政府は考えなければならない。
 第2に,財政事情が悪化しているまたはそれが見込まれる場合には,政府は短期債の発行比率を上昇させることも有効な政策となりうる。経済成長の鈍化や国債発行量の増大など現在または将来の財政事情に対する不確実性が増す場合,各国債の価格を所与として需給ギャップを考えなければ,政府は長期債の発行比率を上昇させる一方,投資家は短期債への投資比率を上昇させることが最適な選択である。しかし,この満期構成の需給ギャップにより長期債価格(金利)に対するリスク・プレミアムが大きくなる場合には,政府は財政再建に対する市場の信認を維持することによってそのリスク・プレミアムを抑え,さらには市場による長期債の未消化を回避するためにも需要に合わせて短期債の発行比率を上昇させることが望ましい。

お探しの出版物が見つからない場合は「出版物検索」ページでキーワードを入力してお探しください。