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証券経済研究 第55号(2006年9月)
自己資本比率と銀行の増資行動
阿萬弘行(長崎大学経済学部助教授)
宮崎浩伸(秋田経済法科大学経済学部講師)
〔要 旨〕
近年,銀行の健全性とその影響を巡る議論が盛んである。1990年初頭以来の長期にわたる不況と金融システムの脆弱性の顕在化の中で,銀行がその財務的健全性を確保・促進するためにはどのように規律付けるべきかという政策的議論が盛んに行われ,また他方で,銀行行動に関する実証分析も盛んに行われてきた。
銀行規制の大きな契機として,1998年に早期是正措置が導入され,それ以降,多くの銀行が増資による資本増強を実施している。早期是正措置は,いわゆるBIS基準に基づく自己資本比率に応じて,金融当局の銀行経営への明示的介入・ペナルティ措置を定めたルールである。本稿では,早期是正措置による自己資本比率規制の環境下において,実際に,自己資本比率水準が,銀行の増資決定インセンティブに影響を及ぼすメカニズムを実証的に明らかにする。多くの先行研究は,自己資本比率水準が銀行貸出に影響を与えるか否かという「キャピタルクランチ仮説」について分析してきたが,自己資本比率向上のための代替的手段である銀行増資に及ぼす影響を分析した研究は極めて少ない。さらに,銀行資産の健全性を図る重要な指標として注目されてきた不良債権比率と増資決定の関係についても分析した。分析の結果,自己資本比率の低い銀行は,相対的に増資決定確率が高いことが示された。また,不良債権比率の高い銀行は,相対的に増資決定確率が低いことが示された。これらの結果から,自己資本比率は,銀行の資産面である貸出のみならず,資金調達面である増資行動にも有意な影響を及ぼしていることが示唆される。
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