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証券経済研究 第61号(2008年3月)

なぜ、HLI危機の再発を防げなかったのか?
―金融安定ホーラム(FSF)レポートの意義と限界―


野下保利(国士舘大学教授)

〔要 旨〕
 ヘッジファンドやSIVなどの高レバレッジ資産運用機関(HLI)は,市場流動性の供給者としてだけでなく,CDOなどの新たな証券化スキームを支え従来基準では難しかった低格付け向け融資を可能とした。反面,信用逼迫の局面では,LTCM危機が示したように国際金融システムに深刻な影響を与える。HLI危機の再発を阻止するため金融安定化フォーラム(FSF)を中心として各国当局や国際機関は,市場規律の徹底を図る措置を行い一定の成果をみた。国際金融システムはいっそう頑強になったかに思われた。だが,2007年半ばにはHLIが大きく関与するサブプライムローン問題が勃発し,再び国際金融市場は動揺する。
 HLI危機の再発はこの間の金融構造の変化と関係していた。特に,FSFの勧告により一定の成果をみたHLI対策が逆に,オンバランス上のリスク回避のためにHLIを組み込んだストラクチャード・ファイナンスへと民間金融機関を向かわせたのである。株価をはじめとする資産価格の形成が大きく変化している下では,市場規律強化策がかえって,銀行や証券会社,特に機関投資家にHLIの組成を促すことになるという構造的関係がある。問題が構造的であるとき,HLI危機を市場規律の徹底だけで押さえ込むことは難しい。政策思想の転換を含む抜本的対策を講じる時期に来ている。

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