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証券経済研究 第61号(2008年3月)
証券化の進展と有価証券概念
高橋正彦(横浜国立大学大学院教授)
〔要 旨〕
証券取引法上の基本的概念である「有価証券」の範囲は,限定列挙の規定の下で,銀行・証券等の業際問題の制約などから,戦後長らく固定されていた。1990年代前半の金融制度改革に至り,金融の証券化の流れのなかで,ようやく有価証券の範囲が拡大し始めたが,大蔵省と他省庁との省際問題などが制約となり,「幅広い有価証券概念」は十分に実現しなかった。その後,証券化の進展や,1990年代後半の金融ビッグバンに伴い,数次にわたる証券取引法の改正により,断続的・後追い的に,個別の新しい有価証券が追加されてきた。
こうした経緯を経て,投資サービス法(仮称)に向けた金融審議会の議論では,同法の対象となる金融商品として,「投資商品」などの上位概念の導入が検討された。しかし,2007年9月末に全面施行された金融商品取引法では,立法技術的な制約などから,そうした上位概念は採用されなかった。集団投資スキーム持分に関する包括条項の導入などにより,幅広い有価証券概念には近付いたものの,証券取引法以来の有価証券概念と,その定義規定の枠組み自体は,従来どおり維持された。
「貯蓄から投資へ」という流れは時代の要請に沿ったものとしても,現状の有価証券概念の背後にある投資対象性の判断基準について,その整合的な線引きは容易ではない。また,投資者(消費者)保護の観点などから,投資商品とそれ以外の金融商品を峻別する理由も乏しい。証券化の一層の進展など,金融商品が多様化し続けるなかで,旧来の有価証券概念を維持することは,もはや限界に近付いている。
将来の金融サービス(・市場)法に向けて,長年にわたる有価証券概念の呪縛を脱し,「金融商品」等の上位概念の定立など,次の局面を展望すべき段階が迫りつつある。
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