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証券経済研究 第65号(2009年3月)
アメリカにおける州・地方債利子非課税の実態
野村容康(獨協大学准教授・当研究所客員研究員)
〔要 旨〕
本稿では,主にアメリカ連邦税の税務申告データに依拠しながら,州・地方債利子に対する非課税の実態について所得分配の観点から分析を行った。本稿で明らかにされた主要な点は以下のとおりである。
(1) 1980年代において個人による州・地方債投資が著しく拡大したが,その要因の一つとして,所得税の最高税率引下げによって州・地方債投資に伴う暗黙の税率が低下したことがあげられる。相対的に低い所得階層の投資家にも非課税債投資により租税節約が可能となり,そのことが投資家の裾野を広げることにつながったと考えられる。
(2) 1990年代以降,個人金融資産に占める州・地方債の比重が低下する一方で,その分布はより高い資産階層に集中する傾向にある。しかし,一定以上の高い資産(所得)階層の世帯では,必ずしも資産(所得)の増大に比例するように非課税債券を無制限に増加させているわけではない。
(3) 同様に,1990年代半ば以降,非課税利子の不平等度が高まる傾向が認められるが,そうした背景としては,1993年における最高税率の引上げに伴う租税節約の増大によって,高所得者による非課税債もしくは免税債ファンドへの投資が増大した可能性がある。
(4) しかし,(2)に関連して最高所得階層では,非課税利子よりも課税利子や配当,キャピタル・ゲインの不平等度が高くなっていることから,これら高所得の投資家は,非課税債券よりもむしろ課税債券や株式への選好の方が強いことが窺われる。
(5) 2000年代初め以降,資産所得内部における不平等の源泉としての非課税利子の相対的地位は低くなっているが,これには,2003年の配当とキャピタル・ゲインに対する税率引下げが強く影響したと推測される。新たな軽減税率の導入により,利子非課税の優遇措置としての相対的な魅力が低下するなかで,高所得投資家がこうした制度変更に対応して自らのポートフォリオ構成を組み換えた可能性がある。
(6) 不平等な非課税利子の分布は,一定の水準を超える所得層に対して,逆進的な租税節約による利益を生じさせており,こうした非課税制度が,高所得の投資家にとって一定のタックス・シェルターとして機能してきたことを物語っている。
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