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証券経済研究 第68号(2009年12月)
米銀の証券投資と有価証券会計基準
新祖隆志郎(同志社大学大学院博士課程後期課程)
〔要 旨〕
本稿の課題は,1993年の基準公表以来,米国における現行の有価証券会計基準として採用されている二元的時価評価のうち,評価損益を当期純利益ではなく資本に直接計上する会計処理である資本直入法を取り上げ,この会計処理の現実的機能を銀行の証券投資への作用の観点から明らかにすることである。
有価証券に対する資本直入法の適用は,証券投資を大規模に行い,それゆえ有価証券会計基準の影響を最も強く受ける銀行に対して,表面上は評価損益をオンバランスさせることになるが,この評価損益は当期純利益の計算からも,また規制上の自己資本比率計算からも除外されているために,実質的には償却原価法を適用している場合と変わらない会計上の効果を発揮している。
このような資本直入法の会計効果は,銀行の証券投資との関連で次のような二面的な機能を果たしてきた。第一に,1990年代以降,大手銀行を中心に銀行業界では収益資産としての証券投資への依存度が高まっていると同時に,当期純利益の平準化にも強い関心を抱くようになったが,以上のような資本直入法の会計効果はこの二つの要求を両立させる条件として機能してきた。しかし第二に,その一方で資本直入法は,銀行の証券投資の投機化を促進させる機能を果たしており,この側面は今日サブプライム問題に起因して多くの銀行が計上している巨額の証券投資損失の一因であったと考えられる。
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