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証券経済研究 第77号(2012年3月)

ユーロ危機とインフレ率格差

代田純(駒澤大学教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 グローバライゼーションは,国民国家の枠組みを弱め,内外価格差,賃金格差,金利格差を収斂させる傾向を持つ。すなわち,高価格(高賃金)国では物価低下(もしくは低インフレ率)バイアスがかかり,低価格(低賃金)国では物価上昇(もしくは高インフレ率)バイアスが生まれる。同時に,高金利国では金利が低下するバイアスが生まれる。こうした内外価格差(労働力の価格としての賃金,資本の価格としての金利を含む)のハーモナイゼーションは,グローバライゼーションに伴う,商品移動の活発化(貿易の増加),労働力移動や海外投資(証券投資,直接投資)の増加を背景としている。ユーロ圏では通貨建てがユーロ建てで共通しており,価格差収斂のバイアスがより強い,と見られる。
 ユーロ圏で低価格国はギリシャなど南欧諸国であり,ユーロ導入以降インフレ率は高水準であった。高いインフレ率に規定され,社会保障関係支出や人件費を中心に,財政の歳出は増加した。同時に,インフレの進行によって実質長期金利は著しく低下し,国債利払い負担は実質的に軽減され,国債依存の財政構造が形成された。他方,高価格国はドイツ,フィンランド等であり,低インフレ率により歳出は抑制され,財政赤字は相対的に抑制された。ユーロ圏におけるインフレ率格差が,2010年から2012年にかけてのユーロ危機の一因であろう。  ユーロ圏の銀行総資産において,国債は5%程度の比率であり,平均すると高いわけではない。しかし,個別銀行で見ると,コアTier1に対し南欧諸国国債保有額が高い比率に達しているケースが散見される。ギリシャの国債がデフォルト(元本の「自発的」削減50%を含む)した場合,個別銀行には深刻な影響を与える可能性が懸念される。
 さらに邦銀の国債保有額の対自己資本比率は,Tier1比率で見ても,極めて高い水準にある。今後,日本の長期金利が上昇した場合,銀行セクターへの影響は,ユーロ圏よりも日本において一層深刻化することが懸念される。

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