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証券経済研究 第78号(2012年6月)
多角化ディスカウントの実証分析
―事業多角化と地域多角化の影響―
中野貴之(法政大学教授)
〔要 旨〕
本研究は,多角化ディスカウントと称される現象,すなわち多角化が進展するほど企業価値が低く評価されるという現象が,日本の証券市場において生じているかどうかを検証する。この研究の際立つ特徴は,事業多角化(商製品・サービス分野の多角化)に加えて,地域多角化(生産・販売拠点のグローバル化)も多角化戦略の一形態として捉え,それらの影響を切り分けた検証を行っている点にある。本研究の重要な成果は,日本の証券市場を対象として,以下の二点を証拠づけたことである。
第一に,日本の証券市場では,事業多角化および地域多角化の進展とも相互の影響を考慮してもなおマイナス要因として捉えられており,事業多角化および地域多角化双方によるディスカウントが実際生じていること,第二に,ただし,両者の限界効果を比較すると,地域多角化の方が負の方向に有意に大きく,事業多角化より,地域多角化によるディスカウントの方が一層顕著に生じていること,以上二点である。
現在,日本企業において事業活動のグローバル化を図ることは不可避の課題になっているとはいえ,野放図に拡大に走るのは負の影響が大きく,企業価値を著しく毀損する恐れさえあること,したがって地域多角化を図る際には,証券市場に対して一層適切かつ積極的な情報開示を行うとともに,ガバナンス・システムの強化を図るなど,そのコストを抑制するような政策を併せて実施していく必要があることを,以上の知見は示唆している。
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