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証券経済研究 第79号(2012年9月)

ドッド=フランク(DF)法における破綻処理スキームについて

佐賀卓雄(当研究所理事・主任研究員)

〔要 旨〕
 アメリカでは,2007-09年の金融システム危機の深刻化を背景に,その再発防止に向けた金融規制改革の取り組みが精力的に進められ,2010年10月にドッド=フランク(DF)法が成立した。DF法は金融システム全体にわたる広範囲な金融規制改革を目指したものであるが,その中心は,システミック・リスクを特定し,それらを監視する機能を担う金融安定カウンシル(FSOC)の創設と,システミック・リスクの源泉である大規模かつ複雑,相互に絡み合った「システム上重要な金融機関」(SIFIs)に対する「秩序立った清算」(OLA)のための破綻処理スキームを構築することであった。
 アメリカでは,これまで,破綻処理スキームは一般企業を対象とする破産法と預金取扱金融機関を対象として連邦預金保険法(FDI法)に基づき連邦預金保険公社(FDIC)が行なう破綻処理の二つがあった。DF法はSIFIsに対してFDI法に基づく破綻処理スキームを準用した。この結果,FDICが破綻処理の対象とする範囲は大きく拡大され,投資銀行やヘッジ・ファンドなどに対しても権限を行使する可能性が出てきた。また,FSOCを通して,財務省やFRBの権限も拡大されることになった。要するに,DF法は,FRBのSIFIsへの権限の拡大,FIDICの破綻処理対象となる金融機関の範囲の拡大,それにもましてFSOCの創設によって財務省に強大な権限を認めるものである。これらとSIFIsとの間の協調主義(corporatism)が広がれば,「新たなツゥー・ビッグ・トゥー・フェイル(TBTF)クラブの形成」の結果となり,SIFIsの破綻処理は救済(bailout)に大きく傾く危険性がある。仮にそのようなことになれば,DF法が目指した「TBTFの終焉」,納税者の負担による金融機関の救済の終焉,という目的に反することになり,金融規制改革は失敗したといわざるを得ないであろう。

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