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証券経済研究 第90号(2015年6月)
中央銀行の金融政策と「デフレ脱却」
春井久志(中央銀行研究所代表・当研究所客員研究員)
〔要 旨〕
2008-09年の世界金融危機は,ほぼ世界中の諸国・経済に大きな悪影響を与えた。主要な中央銀行は,自国の金融システムの崩壊防止のための危機対策として,政策金利を0%近傍にまで引き下げた。さらに,流動性不足に陥った金融機関を救済するために,主要中央銀行は,これまで一度も試したことのない非伝統的金融政策を採用する形で,金融政策としては未踏の領域に次々と突入していった。すなわち,主要な中央銀行は巨額の債券を購入する「量的金融緩和策」を実施した。一方2012年末,安倍晋三氏は日本経済の再興を目的にした「アベノミクス」により「デフレ脱却」をめざす政策の一大転換を打ち上げた。これを受けた日本銀行は2013年4月に異次元の金融政策を打ち出した。この異次元緩和策は,2014年度末までマネタリーベースの供給量を2倍にして2年程度を目途に2%のインフレ率目標を達成することを主眼としたものである。日本銀行は貨幣数量説に信頼を置いているように見受けられる。
しかしながら標準的な経済学の教科書は,引締め的な金融政策(政策金利の引き上げなど)はインフレ率や経済成長率を引き下げる効果があるとしている。他方,中央銀行が貨幣供給量を拡張することによって経済成長率やインフレ率を引き上げる緩和政策の効果はかなり限定されたものである,としている。さらに金融政策が実体経済に与える影響力についての実証研究の結果もその効果について同様の「非対称性」を示唆している。日本銀行の非伝統的金融政策をケインズの『貨幣改革論』や『一般理論』の視点から検討する。また,ケインズが分析する貨幣価値変化の社会的影響および「投資誘因」の論点からも理論的に検討を加える。
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